【コラム】メタファーから透けてみえるもの:それぞれの here & now

今回のコラムでは、クリエイティブ・アーツセラピーを学ぶ布石として、身近でパワフルな表現技法であるメタファー(隠喩)を用いた小さなストーリーを贈ります。あなたは、何を思い、何を感じるでしょうか?

**********************************

今日、久しぶりに自宅の本棚の前に立った。自分の背の高さを遥かに超える本棚。15年前に船に乗って一緒に日本に引っ越してきた洋書もたくさん詰まっている。タイトルを眺めるだけで、初めて手にしたときの感動、その重さや温度まではっきりと思い出せる本がある。触れるだけで涙が溢れる本がある。「これ、私の本だっけ?」と首を傾げてしまう本も。本棚は、自分を物語る。あのとき必要だったテキスト、あのとき知識欲を満たしてくれた専門書、あのとき希望をくれたノンフィクション。

今の自分が本棚だとしたら、ここにどんなセレクションが並ぶだろう。どの本をいま必要とする誰かの元へ届けるだろう。どんな本を新たに加えたくなるだろう。目を瞑ると新しい紙のにおいがする。ずっしりとした重みを感じる。静かに本棚の前に立ち、ページをめくるもう一人の自分の姿が目に浮かぶ。パラパラという音が聴こえる。よし、明日は本棚の整理をしよう。

 

表現アーツセラピスト 山口美佳